近づく椰子の島

船の南下とともに気温が上がり、夏服に衣替えするなど船内生活にも慣れてきた。

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日本を発って数日後、椰子の繁る緑の島が近づき、やっと常夏の国にきた実感がわく。私は岩手の山国育ちであったので、海上から陸影を見るのは生まれて初めてで、その鮮烈な感動は今でも瞼に刻まれている。

思えば小学生のころ、夏休みに父に連れられて、五葉山(標高一三四一米)に登り、山頂から荘厳な御来光を拝み太平洋を遠望したのが、初めての海との出会いだった。

船はルソン島とミンダナオ島の間の多島海を航過して、セブ島に寄港。税関係官を乗せ、ミンダナオ島の積み込み地に回航した。

ラワン材は岸辺から丸太のまま、沖がかりの本船まで筏にして運び、船のデリックで吊り上げ、船倉に積み込んだ。

付近は山林だけで人家もなく、現地作業員は文化の香がする乗組員との物々交換がお目当てらしく、私に化粧品をねだるので石鹸一個渡したら、バナナひと房の返礼にびっくりした。

©2002 Kaneo Kikuchi

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