敵は南京虫なんきんむし

この戦標船(戦時標準型の船舶)は、在来船とくらべると、すべてがバラック工法で、ベット脇の壁板の隙間に住みついた南京虫の夜襲には、ほどほど参ってしまった。

この虫は暗がりで襲う習癖から常に常に懐中電灯を手元に置き、頃合いをみてパット照らすと、す早くベット用の蚊帳の隅に逃げたところを手でつぶし、退治していた。

この船の無線室は狭く、かつ二段ベットの居室併用で、嫌でも無線信号に邪魔され、満足な休息もできなかった。

敵の潜水艦回避と、乗組員の疲労回復のため適所に仮泊することがあった。 マージャン愛好者はその寸暇に、隣室の士官食堂で卓を囲み、ガラガラ音が深夜におよぶこともあり、うるさかった。

このように各室間の防音隔壁もずさんな、粗製乱造な船であった。

©2002 Kaneo Kikuchi

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