税関吏員の接待

ラワン材積み込みのため、戦後初めてマニラに寄港したことがあった。上陸は自由だが、戦争の後遺症で、住民の排日感情から生命の保証はできないと言われ たので、私は上陸しなかった。

それからセブ島で税関吏員を乗せ、ミンダナオ島でラワン材の積み込みを行なった。  乗船した税関吏員は、来賓室で同行のボーイと寝泊まりして特別の接待をうけ、日中からパジャマ姿で、まるで保養にでもきているような様子であった。

当時の日本では砂糖が貴重品であっので、乗組員たちは色々な手段で入手していた。 当該税関吏員はこれを先刻承知の上で、ころ合いを見計らって船内の一斉捜査をして摘発、「出港を差し止める」などと、船側を苦しめるのであった。

更なる接待につとめ、懇願すると「次回来航時は家電品の○○を持ってこい」などと所望するので、事務長は大いに困惑していた。これは敗戦国の、悲哀の一コマである。

©2002 Kaneo Kikuchi

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