○序文抄

元逓信次官、大和田悌二氏が、社史「大道」の序で、田中社長の横顔を見事に描写しているので一部引用することとする。

「上着は三高の制服、菜っ葉色の職工ズボン、兵隊靴姿の一癖ありげな京大新入生が、私の下宿近くの食堂に出入りしていた。

果せるかな一廉の剛の者で、短艇と柔道に入部して、めきめきと頭角を現わしたのが田中正之輔君だった。

大学を出て、山下汽船に入社したことは知っていたが、その後君との交渉は途絶えていた。私が逓信省で、海運政策を説いたのが、君の共感を得たようで、体験に基づく意見を頻繁に交換するようになった。

それから時局が次第に緊迫し、総動員法の実施。国の統制の幅と度合いが拡大。物価統制から、海陸運賃が俎上に乗せられ、海運本体の管理運営が取り上げられるに至った。

その間、田中君は進んで当局の施策に有力に参画。海運業者の自主統制機運醸成に尽瘁した。他方、自社健全発展に肺肝を砕く幅の広い活動を、決して怠らなかった。

また、終戦後は文字通り廃墟の中から、不死鳥のように飛び立って、短日月の間に以前に劣らぬ大同海運の新威容を見事に現出。流石に君らしき働きと絶賛を惜しまない。」と述べている。

 

©2003 Kaneo Kikuchi

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