○ 北村羅津市長の手記から

『十日午前十時すぎ、中原警察署長とともに憲兵隊を訪れると・・・驚くべし、もぬけの殻だ。裏庭にブスブス煙が見え、重要書類を廃棄したらしいあとがみえる。そこへ補助憲兵が帰ってきたので聞くと、自分は『早朝から外部の警戒を命ぜられ、帰ってみると、隊長以下の姿は見えないので、さがしているところだ』との答え・・・・・平素、いばりちらした憲兵が、関係方面になんの連絡もつけず、市民をうち捨て、いち早く逃げさるとは憤激にたえない。

午後も空爆は続いている。これ以上、最悪の場合があるだろうか。幸いソ連軍がまだ羅津に上陸してこない。よし、避難命令を出そうと決意した』

 

©2004 Kaneo Kikuchi

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