4 菅谷汽船 天正丸 (三千総トン)

敵機が来るたび「打ってはいかん」と言われた船砲隊長は、敵編隊が本船に襲ってきたとき、はじめて号令をかけた。敵機がつっこむ寸前だ・・・・・
「お前等の日頃の訓練の成果を発揮するのがいまだ・・・打てー」
今までじりじりしていた各砲手は一斉に火ぶたをきった。敵機は黒鷲のように襲ってくる。猛烈な爆撃投弾をくらった。一回の投弾三発である。頭の上でしゅっしゅっと唸ってくる。海面で「ドカーン」となる、そのあいだの息のつまるような思い・・・

一段と大きな音がした。爆撃の反動で、船はぐらつく。フト見ると前の柱に肉片がついている。あっと思って横の一段下を見れば四〜五名の兵隊がやられている。

一人の上等兵は手のひらをやられてざくろのようになっている。もう一人の兵隊は指をとばされて、おさえながら、それでも機銃にすがっている・・・・・また大きな音がした。耳がやぶれそうだ・・・ふりかえると・・・機関銃の砲口が自分の耳に向かっている・・・射手に「無茶するな」と怒ったら・・・「すまん、丁度よいところに敵機がきたんだ」・・・と笑った。・・・フト横を見ると・・・自分のすぐそばに倒れている分隊長が・・・「膝をやられた。骨がくだけているだろう・・・血止めをしてくれ、このロープで」と言って、腰からロープをはずして自分に渡した。自分は力いっぱいしばりながら、その弾が貫通していたら・・・自分のどてっ腹に入っていることを思い・・・ぞっとした。

夕暮れになって、傷ついた戦友に「早く良くなって帰ってこいよ」・・「おお元気で早く帰ってくるぞ、後をしっかり頼むぞ」・・・と言ってボートの中と、船の上から別れた・・・

この暁部隊も弾を撃ち尽くし、十日朝退船命令を受け、残る全員上陸し、清津目ざして南下した。

(この項は『秘録 大東亜戦史』たたかう船舶兵から引用)

 

©2004 Kaneo Kikuchi

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